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「後ろ向いてるね」
「後ろ? そうですかね?」
「うん。それと、敬語じゃなくていいよ」
「いやいやいや。…あの、後ろじゃなくて恐らく横を向いてますね。この時のことそんなに憶えてないけど、写真からすると」
「そうなんだ。テカリ具合からして後ろ向いてるのかなって思ったんだ」
「なるほど」
「後ろ向いてるように見えるんだけどな」
「今思ったんですけど」
「うん」
「あんまり相手の言ってることを理解できてないのに『なるほど』って言ってしまう時が私にはありまして」
「あ〜。今言ったのもそんな感じの…」
「はい。『なるほど』って同意を示せる便利な言葉で、その便利さにかまけてとりあえずわかったふりをして、ただただ相手の言ってることに同意してることだけを示すっていう、良くない…同意のみがポッカリ浮かんでるような使い方ができてしまう言葉じゃないですか」
「知ったかぶりみたいな」
「う〜ん… それもそうですけど… で、そういう、なんだろうな…理解できないことに直面して、理解できてないにもかかわらず言う『なるほど』って今言っていたのとはちょっと違うタイプの、異なる『なるほど』がある気がしてて」
「んん?」
「え〜っと…例えば、部屋を模様替えしたとして。家具なり、カーペットの配置を変えたとして」
「ふむ」
「一通り終わった後、模様替えする前と後とで、なんというか、何かしら、部屋の様子とかが良くなったのかがいまいちわからない。その時、とりあえず『なるほど』って言いますよね」
「言わないよ(笑)」
「え、そうですか!?」
「それ、模様替え失敗してるんじゃないの」
「いや、明らかに失敗してるみたいな感じじゃなくて…」
「良くなったかがわからないんでしょ?或いはさ、失敗してるっていうか、まだ模様替えの途中ってことなんじゃない」
「いや、途中でもなくて、模様替えの作業自体はもう終わった感じがするんですよ」
「知らないよ〜」
「例えを変えましょう。散髪したとします」
「うまく想像できないけど…うん」
「散髪し終えて…あ、私はいつも髪切ってもらった後に適当な場所で自撮りするんですけど」
「へぇ。髪とか切るんだね」
「切りますよ。で、自撮りするのは自分が散髪しに行く周期みたいなのを把握するために記録しておくっていう目的もあるんですけど、まぁ、なんというか…新しい髪型ぶっちゃけどんななん?イケてるんか?っていうの確かめたいっていうのもやっぱあって」
「まぁ、散髪した日から暫くしてちょうどいい感じの髪型になるように切るらしいけどね。知らないけど」
「詳しいじゃないですか。まぁ、その上で、やっぱり確かめたいじゃないですか」
「うん」
「で、自撮りして、その写真見た時『なるほどね〜』とか言うんですよ」
「あ〜、なるほどね」
「いや なるほどて。…まぁその、つまり、さっきの模様替えし終えた部屋の例えで言うと、部屋が良くなったかどうかはそれなりに短くない時間をその部屋で過ごさないと判断できないんじゃないかと思ってまして。時間を掛けないとわからない。さらに、その部屋で過ごしていくにつれて時間が流れていって、信じられないくらい微かに、自分が微妙に変わっていて」
「ん?」
「模様替えした少し後、或いはずっと後になって微妙に変わった自分が部屋について何か思ったり思わなかったりする。それを見越してる訳ではないけど、とりあえず『なるほど』って言って、その、大げさに言うとある程度の時間の流れに向かって判断や理解を託すんです。保留するっていうとわかりやすいけど、保留とも違うんですよね」
「う〜ん…よくわからないな」
「ちょっと自分でも何言ってるかわからなくなってしまいましたね…あ、例えば、漬物を作るとして」
「例え話はもういいよ〜」
「すんません。…なんかさっきから明らかに目に見える変化を伴った例えしか出してないんですけど、なんつうか、もっとささやかなものでも良くて」
「まぁそれは置いといて。さっきの散髪の後の自撮りの話してる時、『なるほど』って言ったけどさ、話の流れとか意識せずに普通にスッと言ったんだよね」
「言ってましたね」
「それで思ったのは…こっちも例え話になっちゃうんだけど(笑)新しいボードゲームを買ったとしてさ、アイテムとかマップ、カードとかのデザイン…ゲームをする上での機能的なデザインとか、雰囲気とか見たりして。その時ゲームのルールを把握してないにも関わらず『なるほど』って言うなぁって思って」
「部屋の模様替えと同じじゃないですか」
「いや、違うでしょ。で、ボードゲームしていく上で段々ルールを理解し出した時、本来の意味でのなるほどを言うんだよね。ゲームのルールを、プレイする中で理解できましたっていう。理解する事に追いつく。最初のそしてその時になって、本来の意味での『なるほど』を言うことができる」
「あ、だから、時間を噛ませる必要があるんですよ。それぞれ時間の長さは異なっていて、ボードゲームの場合はプレイする時間、模様替えは部屋で過ごす時間。自撮りは、何だろうな…写真として残るから後から見ることができるんだけど…」
「それぞれの例え話が微妙に噛み合ってないんだけど、恐らく共通してるのは、理解してないけど『なるほど』って言った時点で何かしらを認めてるようなことが起きてることかもしれない」
「…自撮りして、それ見て…『認めます。』みたいな?」
「…ちょっと大げさかも。認めるはちょっと違うな。そのさ、さっきまでの例えで言うと明らかにつまんなそうなボードゲームとか、模様替えがうまくいってない部屋には『なるほど』って言わないじゃん。ふざけて言うかもしれないけど。だから、その時点では理解はしてないけど、いやある種理解できてるのかもしれないけど、自分にとってまだ謎で、わからないけどとりあえず置いといておきましょう、でも、良いですねっていう」
「良いですね…ってなるし、良いですねの手前で留めておくこともできる」
「良いんじゃんって」
「…なるほどについて話し込んじゃいましたね。なんでこの話題になったんだろう?」
「確か なるほどって君が言ってさ、それで…」
「ああ、そうだ。後ろ向いてるとか訳わかんないことをあなたが言い出したから」
「いや、後ろ向いてるでしょ!」
「向いてないですよ。どう見ても、横ですよ、横」
「テカってんじゃん!」
「いや、それも意味不明ですから!」