芸術係数@CS-Lab:「関係性の美学」まで
芸術係数@CS-Lab:「関係性の美学」まで
日時:2013年5月24日 17:00-
講師:辻憲行(芸術係数)
会場:CS-lab(東京造形大学内)
アクセス:http://www.zokei.ac.jp/smenu/access.html
料金:無料
芸術係数blog:http://gjks.org/
1998年に刊行された「関係性の美学」は、フランス人キュレーターで批評家でもあるニコラ・ブリオーが、当時美術批評やアカデミックな研究において無視されていた同時代(主に1990年代のヨーロッパ)のアーティストや作品を言説化し、プロモートするために編まれた論文集です。ブリオーの一義的な目的は90年代美術の言説化にありましたが、「関係性の美学」というコンセプトはその後2000年代以降にも影響力を維持しています。リクリット・ティラバーニャやピエール・ユイグ、ドミニク・ゴンザレス・フォレステルらが世界的に評価を高める一方、ブリオーが同書で取り上げていない「リレーショナル・アート」の後継世代とも言える、ティノ・セーガルやマーティン・クリードが注目を集めていることからもそれは明らかでしょう。
収められた各論考は、複数の批評誌にばらばらな時期に掲載されたもので、理論的枠組みとしての「関係性の美学」は一貫性を欠いた、曖昧なものにとどまっています。にもかかわらず、90年代以降のアートシーン含めた社会状況を受け、同書の提起した「リレーショナル・アート」や「関係性の美学」は90年代を代表するアートのキーワードとして広範な影響力を持ちました。その一方でとりわけ日本のアートシーンでは、「関係性の美学」のコレクティブな芸術実践と日本的な村落共同体的文化の表面的類似性が強調され、「関係性の美学」に対する日本的エートスの優位性を短絡的に主張する意見が散見されます。果たしてこうした見方には何らかの生産的な効果があるのでしょうか?今回の講義では「関係性の美学」を生み出した90年代に先行する大きな変動の時期であった60年代後半から70年代前半の美術史の動向を視野に入れながら、「関係性の美学」について考察してみたいと思います。
「関係性の美学」はブリオーがキュレーションした数多くの展覧会の実践を通じて書かれたものなので、全編を通じて数多くの作品が紹介されています。が、本書には図版が添えられておらず、ブリオーによる作品記述もあいまいで正確さを欠いているため、「リレーショナル・アート」や「関係性の美学」の具体的イメージをつかみずらくなっています。今回は、できるだけそうした作品のイメージをスライドやビデオなどで紹介しながら進行したいと考えています。
辻憲行